ジュンコチャン

第56話 不穏な練習風景

※この小説にはプロモーションが含まれています。

運動会の練習が始まり、まず50m徒競走と障害物競走が行われた。
1年1組の風間佐武郎は順子ちゃんに挑むも両方惨敗してしまう。
50m徒競走では善戦するも障害物競走においては縄潜りで反則プレーをしたあげく
麻袋のジャンプで圧倒的な実力差を見せつけられてしまいには転んでビリとなった。
反則プレーの元になったのは順子ちゃんだが佐武郎も勝ちたいからと言って反則プレーに手を染めることはいけないこと。
佐武郎も素質があるので正々堂々プレーしてほしいところである。
そして何よりも怪我しないことが大事。
順子ちゃんと佐武郎の対決から目が離せない波乱の予感がする運動会。
次の練習は借り物借り人競争である。






借り物借り人競争の準備のため先生と生徒は出し物を運んでそれを設置する作業を行う。
距離は200mあり50mと100mの地点のレーンの端にブルーシートを敷いた。
そしてその上にお題の書いてある画用紙を置いた。
50m地点は借り物パートでブルーシートを敷いた反対側の方にダンボール箱が3つ置かれた。
ダンボール箱を持ってみると重みがありペンや消しゴムさらにぬいぐるみが入っていた。
おそらくそのダンボール箱の中からお題の物を探すことが目的なのだろう。
本番では観客からお題に沿った物を借りて進行することになっているが
練習ではダンボール箱の中から探して進行する。
ダンボール箱の中身が少なくなり後半の走者が探しやすくなり難易度を下げてしまわないように
走り終えたら当然お題で手にした物はダンボール箱の中に戻すことがルールだ。
借り物のお題の中に「ぬいぐるみ」があると思われるがこれは練習用なのかはわからない。
もしこれらのお題が本番でも使われるのなら果たしてぬいぐるみを観客は持って来てくれるのだろうか。
一方で100m先の地点が借り人パートになるがブルーシートに置かれているお題は3枚しかない。
借り物では本番のような雰囲気を出すためだと思われる。
そして借り人の方は一緒に走るのは先生になると思われるので管理がしやすいように3枚だけにしたのだろう。
本番では借り人の方も3枚だけでなくいろんなお題が出てくるはずだ。
今回は飽くまで練習でありルールを覚えることでありスムーズに進行するためなのだろう。
準備が完了し借り物借り人競争の練習が始まる。
前回の障害物競走と同じく一人ずつ走ることになる。
やっぱり最後の走者は順子ちゃんと佐武郎である。
2組の方も賢季が走る。
佐武郎は「今度こそ勝つ」という意味を込めた鋭い視線を順子ちゃんに向ける。
佐武郎から視線を感じた順子ちゃんは「懲りないわね」と呆れた感じで彼の方を向いて溜息した。
佐武郎「くそ~覚えていろ~」
何だか相手にされていないような順子ちゃんの見下す態度に佐武郎は怒りが込み上げる。
今度こそは勝って目に見もの見せてやりたいだろう。
借り物借り人競争はお題によっては簡単なものから難しいものが用意されているため不確定要素がある。
実力だけではなく運の要素も試される。
運次第で逆転する可能性は大いにある。
しかしどんなお題を引くかはその走者次第。
前回は引きが良くても次回では引きが悪くなっているなんてこともザラにある。
この前、順子ちゃんは友ちゃんたちと桂里奈の退院祝いのために
ビンゴカードでファイティングガルーの抽選会に挑戦した。
結果的にファイティングガルーは桂里奈の手に渡ったが順子ちゃんの運が直接貢献したわけではない。
それでも総合的に順子ちゃんは運がいい方である。
結局は徒競走がベースなので実力に運の要素が上乗せされる形となり
運だけで順子ちゃんに挑んでも勝つことは難しいのである。
まずはやってみることである。
3組で最初に走るのは真木である。
本来ならスターターはいるはずだが今回はなしになっている。
スターターを務めるべきだった先生は違うところでスタンバイしていた。
借り人パートで走るためこのような措置になったのだろう。
スタートの合図はホイッスルでするそうである。
ということでスタートのホイッスルで走者は走り始めた。
真木「いくぜ!」
真木と他の走者は50m地点の借り物パートに到達しレーンを出てブルーシートに置いてあるお題を取って確認した。
真木が取ったお題は「定規」で他の走者が取ったお題は「トイレットペーパー」、「スポンジ」であった。
真木と他の走者はそれぞれお題に合ったものを3つのダンボール箱から探し出す。
今回真木たちが探している物は一見すると本番の運動会で観客が持っていなさそう物ばかりだ。
しかし学校の中を探せば必ずありそうなので先生らはそれらをかき集めてダンボール箱に入れたのだと想像できる。
だからこれは練習のために用意されたものだと思われる。
真木たちはお題に合った物を見つけて次は100m地点の借り物パートへ。
ブルーシートの上からお題を取って書いてあるのを声に出して呼んで
そのお題で駆けつけてくれた人と一緒に走ることになる。
さて真木はどんなお題を引いたのだろうか。
真木の取ったお題はなんと「綺麗なお姉さん」であった。
真木「綺麗なお姉さん!」
恥ずかしかったがお題に書いてある通りに大きな声で「綺麗なお姉さん」と呼んだ。
清水先生「はーい!」
良樹「まじかよ!」
「綺麗なお姉さん」に反応し清水先生が「待ってました!」と言わんばかりに真木のもとへと駆けつけてきた。
「かわいいお姉さん」を引いた他の走者がそれに声に出して呼ぶと今度は近江先生が駆けつけてきた。
そして「カッコいいお兄さん」と呼ぶと大野先生が駆けつけてきた。
今回の練習で借り人パートのお題はこの3つしかない。
「綺麗なお姉さん」か「かわいいお姉さん」を引けば清水先生か近江先生かのどちらかが来て「カッコいいお兄さん」を引けば大野先生が確定する。
スターターがいないのは借り人の代わりに先生が出なければいけないがお題をこの3つにしたのはその布石だったのだろうか。
もしかしてそう言われたかったからそういったのだろうか。
三人の先生はどこか機嫌がよさそうな表情であった。
この光景に生徒たちは先生たちが走る姿を見ながら唖然としていた。
真木「ちょっとちょっと!綺麗なお姉さんって何すか?」
良樹「かわいいお姉さん???もっと他にあったよね?」
他にもいろんなお題があったはずであるので今回のお題の選定について生徒たちは三人の先生に抗議した。
別に悪いことではないが露骨過ぎてツッコミを入れざるを得ない。
30歳から40歳ぐらいなので先生方がこんないい年して子どもたちに「お兄さん」とか「お姉さん」とかそう言わせるのは流石に厳しい。
大野先生「いえ、たまたまですよ」
清水先生「そうです、たまたまです」
近江先生「他にこれしかありませんでした」
先生たちは苦笑いしながらそう言った。
腑に落ちない部分もあるが全体の流れを把握することができた。
しかし借り人パートに入る度に「綺麗なお姉さん」とか「カッコいいお兄さん」と言って先生を呼ばなければいけないところについては
首を傾げてしまうところであり不穏な練習風景がそこにはあった。
先生たちは生徒たちと100mを走り続けており体力的に限界が来ていた。
生徒は仕方なく先生に向けて「綺麗なお姉さん」や「カッコいいお兄さん」と呼ばなければいけないが
それが先生たちの励みになっていた。
本日の練習はここまでなので残りの力を最後まで振り絞り最終走者と共にゴールまで走り切りたい。




順子ちゃんと佐武郎も借り物借り人競争を実践する。
今度はズルをせずに最後まで走ってほしいが先生と一緒に走るので問題はないだろう。
清水先生「ゼェ、ゼェはあ…はあ…やっとこれで最後ですね」
近江先生「はあ…はあ…久しぶりに走りましたが結構きついですね」
大野先生「宮沢さんと一緒に走るのは誰になるんでしょうかね?」
近江先生「あの子、速いから置いていかれちゃうかも」
清水先生「私が注意したおかげで腕を振り回さずに走るようにはなりました」
近江先生は順子ちゃんと走ることに対して戸惑いがあるようだが、誰が順子ちゃんと走ることになるのだろうか。
大野先生「できれば私は風間君と走りたいですね。彼の担任をしていますからね」
大野先生「彼を1着にさせてやりたいところです。」
近江先生「それにしても大野先生も速いですね」
大野先生「こう見えて部活はサッカーしてましたから」
大野先生は学生時代にサッカーをやっていたみたいで速いのも納得だ。
男性であるが故だが清水先生と近江先生よりも体力はある。
だが年を重ねるごとに体力は衰えてきていて大野先生自身もそれを自覚している。
まだ余力はあるためこの余力を佐武郎に全て注ぎ1着を取らせるのが算段だ。
しかしそれは佐武郎が「カッコいいお兄さん」を引ければの話であり彼の運次第である。
位置についた佐武郎は200m地点のゴールを見据えていた。
借り人パートの方で大野先生はスタート地点に立つ佐武郎を見つめている。
その視線には「一緒に走って1着を取ろう」という意味が込められているようだ。
佐武郎は絶対に「カッコいいお兄さん」引かなければならない。
大野先生と一緒に走った生徒の大半は1着を取れているため一緒に走ることができれば順子ちゃんに勝てるかもしれない。
佐武郎「宮沢順子!今度こそお前に勝つ!」
順子ちゃん「ふぅ~ん、往生際は悪いけどあきらめずに私に挑んでくるところは認めるわ」
順子ちゃん「でも次も私が勝っちゃうから~」
佐武郎「くぅ~生意気なやつめ!」
佐武郎が声に出して順子ちゃんに宣戦布告したのは三回目、それに対して順子ちゃんが佐武郎に勝利宣言したのは初めて。
あきらめないところは評価しているようだがまだ片腕だけで相手しようというような生意気な態度だ。
そんな順子ちゃんに態度に佐武郎の心に火を付けた。
スタートの合図のホイッスルが鳴り二人は走り出す。
順子ちゃん「うおおおおおおおおおおおおおお!」
佐武郎「うおおおおおおおおおおおおおお!」
叫び声をあげながら順子ちゃんと佐武郎の二人はダッシュし、二人の迫力に圧倒されながら2組の賢季も追うように走る。
結人「お!!佐武郎あの順子といい勝負してるぞ!」
龍太「これは勝てるんじゃないか?」
佐武郎のクラスメイトの男子は彼の走り振りを期待している。
まだ序盤だがほぼ実力は拮抗している。
大気「おいまずいぞ…」
良樹「いや順子なら大丈夫だ…」
佐武郎の成長していく姿に順子ちゃんのクラスメイトである大気と良樹は彼に脅威を感じつつ彼女の勝利を信じている。
ここから差が付くであろう50m地点の借り物パートに到達。
ブルーシートからお題が記された画用紙を拾い確認する。
順子ちゃんのお題は「紙コップ」で佐武郎のお題は「鉛筆削り」で賢季のお題は「タオル」である。
ダンボールの中からお題にあった物を探すのだが一番最初に見つけたのは賢季だ。
賢季「ラッキー!みっけ!」
順子ちゃん「なにぃいい!?」
佐武郎「あ!やべえ!!」
絶対に1位を譲れない二人にとって賢季が借り物パートを先に抜けたことに危機感を覚える。
ダンボール箱は3つありそのいずれかにお目当ての物が入っているということであり
1つのダンボール箱ばかり見ているとなかなか見つけられこともありタイムロスになる。
先に賢季の見つけたタオルは首に巻いて使うようなサイズのもので、順子ちゃんと佐武郎よりもすぐに見つけやすかったのだ。
順子ちゃん「どけ!小僧!!」
佐武郎「うああ!?なにすんだ!順子!」
自分が見ているダンボールの中にお題の紙コップが見つからなかったのか
順子ちゃんは佐武郎が見ているダンボールを確認しようとしてタックルするような勢いでその強引にそのダンボールの中身を見ようとしている。
佐武郎にとってはトラックがいきなり突っ込んでくるかのような感じであったが間一髪避けた。
もし避けることができなかったら順子ちゃんにタックルされて怪我してしまったかもしれないし練習どころではなかっただろう。
順子ちゃん「見つけたわ!」
佐武郎「やべえ!くそ!何でだよ!」
乱暴なプレーをする順子ちゃんに罰が当たってほしいのにそれとは裏腹に彼女にとって都合のいいことが起きている。
順子ちゃんも借り物パートを抜けていき、賢季の後を追いかけるように走り出した。
順子ちゃん「待あああてーーーー!」
賢季「うあ!来るなーー!」
10秒数えて待ちわびた鬼が人を追いかけまわすかのように、距離はみるみる縮んでいく。
先に借り物パートを抜けて得たアドバンテージは全てもっていかれる。
このままではまた先に順子ちゃんが1着でゴールしてしまう。
1秒でもいやコンマ数秒でも早く佐武郎のお題の鉛筆削りを見つけなければ差は開く一方だ。
100m地点の大野先生が待っている。
ここであきらめるわけにはいかない。
ダンボールの中をくまなく探して鉛筆削りを見つけ出す。
佐武郎「よし!見つけた!大野先生待っててください!」
まだ順子ちゃんに追いつくことができる。
佐武郎は力を振り絞り全力で走っていく。
100m地点に辿り着いた賢季が借り人パートで引いたのは「かわいいお姉さん」だった。
賢季「かわいいお姉さん!」
賢季は恥ずかしながらもお題を読み上げ、彼の声に対応したのは彼の担任の近江先生だ。
近江先生「はーい!野口君行くよ!」
佐武郎の心の声(よし!ということは…順子のやろうは清水先生とだ!)
「カッコいいお兄さん」を引かなかったことに佐武郎は安堵する。
賢季の引きで彼の担任の先生が来たということはこの流れなら
順子ちゃんは「綺麗なお姉さん」を引いて彼女の担任の清水先生とペアになることを予想する。
これは飽くまで佐武郎の予想であり一種の願望だ。
そうあってほしいのは大野先生も同じで彼も佐武郎と一緒に走ることを望んでいる。
佐武郎と大野先生、そしてクラスメイトとの心は通じ合えている。
ここで大野先生と走らなければ感動ドラマなど生まれてこない。
先に借り人パートに着いたのは順子ちゃんだが彼女が引くのは絶対に「綺麗なお姉さん」だと佐武郎は思っている。
順子ちゃんはブルーシートに裏側に置いてある2枚の画用紙のいずれか1枚を拾いプラカードのように天高く掲げ
画用紙に記されたお題を読み上げる。
運命の瞬間、佐武郎は走りながら心臓の鼓動が激しく脈打つ。
順子ちゃん「カッコいいお兄さん!」
大野先生「あっあらま…」
佐武郎「えええええええええええ???!!!」
佐武郎「嘘だーーーーーーーー!」
なんと順子ちゃんが引いたのは「カッコいいお兄さん」だった。
本当に順子ちゃんが掲げた画用紙にはちゃんと油性の黒インクのペンで、でかでかと「カッコいいお兄さん」と書いてある。
大野先生「ごめんね…風間君…」
大野先生「行きますよ!宮沢さん!」
順子ちゃん「はい!」
佐武郎「ちょっと待って!何かの間違いだ~」
佐武郎はそう言うが確率は2分の1なので順子ちゃんが「カッコいいお兄さん」、つまりは大野先生と走ることは全然あり得るのだ。
大野先生は心変わりしたかのように順子ちゃんと走り出した。
まさか順子ちゃんは運だけでなく大野先生まで味方にするなんて思いもしなかった。
大野先生の走りはとても若々しく軽快で風のような走りを見せる。
その風は順子ちゃんを1着へ導く。
近江先生「もう~無理~」
賢季「うわあ~速い~」
賢季と近江先生の2組はペアは見事に順子ちゃんと大野先生に抜かれされてしまったのである。
体力的に限界が来ているのか近江先生の足はどんどん遅くなっていく。
最後に残ったのは「綺麗なお姉さん」で、佐武郎と一緒に走るのは清水先生で確定した。
清水先生もだいぶ疲れた様子だ。
「綺麗なお姉さん」と呼んで佐武郎のもとにやって来たのは農家で仕事を終えてくたびれている疲労困憊の老婆だった。
老婆は言い過ぎかもしれないがお世辞にも「綺麗なお姉さん」とは呼べなかった。
仕方なく佐武郎は清水先生と走ることにした。
それでも佐武郎はあきらめず最後まで走る。
あわよくば順子ちゃんと大野先生の最強ペアを抜こうしてやろうと。
しかし佐武郎の足を引っ張るかのように清水先生の足は重りがついているかのごとく鈍足気味だ。
清水先生「ゼェ、ゼェはあ…はあ…はあ!」
息を切らしていて見るからに疲れていることは痛いほどわかる。
佐武郎「負けてたまるもんか!清水先生頑張って!」
清水先生「風間君…」
清水先生を応援し、不利な状況でも勝つことをあきらめない佐武郎に清水先生は胸を打たれる。
清水先生「行こう!!風間君!宮沢さんを見返してやりましょう!」
清水先生は佐武郎と共に全力で走ることを決意する。
この時だけ清水先生は陸上選手のように見え、力強く前へと進みだし足の動きのテンポを2、3段上げていく。
佐武郎の心の声(これならいける!)
奇跡が起きたかのように足が速くなった清水先生となら順子ちゃんを抜かして1着を取れると佐武郎は思った。
まずは賢季と近江先生の2組ペアを抜かして勢いづいていきたい。
佐武郎に追い風が吹いたと思われたがその風は彼をどん底へ突き落す凶風だった。
清水先生「あた!!」
佐武郎「あっ清水先生!」
足の動きのテンポを早めたことが裏目に出てしまったのか清水先生は躓いてしまった。
清水先生が地面に手をついてしまい、佐武郎は泥沼に足を突っ込んでしまったかのようにブレーキしてしまった。
順子ちゃん「1着!」
佐武郎「あ…」
清水先生の頑張りも虚しく、順子ちゃんは大野先生と共に勝利というの名の1着を取っていた。
清水先生「ごめんね…風間君」
佐武郎「がっくし…」
清水先生は佐武郎の手を貸してもらい申し訳なさそうに立ち上がって彼と一緒に最後まで走った。
借り物借り人競争もビリになった佐武郎であった。
佐武郎「くそ~おのれ順子ーー!次は負けねえ~」
佐武郎の挑戦はまだまだ続くのであった。

続く


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