第57話 肩を並べて
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先生たちの下心がありそうな借り物借り人競争の練習であったが
順子ちゃんと佐武郎の対決は佐武郎が見事に惨敗。
大野先生と一緒に走りたかったがそれは叶わず順子ちゃんに大野先生を取られ
代わりに走ってくれた清水先生は途中で転んでしまい佐武郎は思うように走ることができず負けてしまったのである。
借り物借り人競争の本番で、佐武郎には大野先生より足が速い人と走れることを願いたい。
50m徒競走、障害物競争、そして借り物借り人競争の3競技で順子ちゃんに全て負けて
この日の練習は散々な結果に終わってしまった佐武郎。
だがこれは本番ではなく練習なので今回がダメでも次に活かして頑張ればいい。
まだ佐武郎は負けていない。
涙を飲んで帰った後の佐武郎の様子を見ていこう。
その日の午後、佐武郎は家に帰ったらすぐランニングマシンを使って走る練習をしていた。
佐武郎の父「帰ったぞ~」
佐武郎「あ、父ちゃんおかえり」
運動会で勝ちたい相手がいることを息子の佐武郎から聞いているので父は彼に運動会の本番に向けてランニングマシンを貸してあげて
仕事から帰るたびにこうして様子を見に来ているのである。
佐武郎の父「そういえばお前が勝ちたい相手って誰なのか聞いてなかったな」
佐武郎の父「友達なのか?」
佐武郎「えっと…」
まだ父には運動会で勝ちたい相手が誰なのかまだ話していなかった。
それもそのはず、相手は順子ちゃんで女の子だからだ。
見た目は乙女、中身は化け物、そんなフレーズが相応しいくらいキャラが確立されており佐武郎の脅威となる存在だ。
本番できっと観客は順子ちゃんの豪快なプレーを見て驚き、普通の女の子ではないと思われるはずだ。
もちろん佐武郎の父は順子ちゃんがどんな子なのかは知らない。
正直に今日のことも話したらきっと「女の子が相手なのか!?」とか「女の子に負けるなんてみっともない!」とか言ってくるかもしれない。
それは男としてのプライドが許さない。
アニメや漫画でも能力や実力など強キャラ感を出すためにそこそこ強い立ち位置のキャラはかませ役になる傾向がある。
佐武郎は1組の中で一番足が速かったばかりに順子ちゃんの相手をしなければならないのが気の毒だ。
観客の方で見ている家族の前で悲しい姿を見せたくないのである。
せめて運動会のアルバム写真に順子ちゃんに負けて跪いて哀れになる姿が刻まれるのだけは御免だ。
そんな佐武郎は父の質問に応えずただひたすら前を向きランニングマシンで走っている。
順子ちゃんの存在が、佐武郎が成長するきっかけとなり彼にとって大きな試練として立ちはだかっているのだ。
佐武郎の父「ふ~んなるほどな~」
顎を手に当て父なりに息子の心情を察しているようだ。
佐武郎の父「もしかして好きな子ができてカッコいいところを見せてやりたいんだな~」
佐武郎「違うって~」
父の勘違いに佐武郎はランニングマシンに足を滑らせ床に転げ落ちた。
佐武郎「あいつなんか!!別に好きじゃねえし!敵だ!敵だ!」
佐武郎の父「うん?あいつ?もしかして相手は女の子か?」
佐武郎「ギク!」
好きな子ができたのかについては間違いだが、相手は女の子というところについては合っていて
まさに半分合っていて半分間違っていると言ったところ。
しかし佐武郎の「あいつ」と言った発言、そしてそのオーバーリアクションで父は息子の心情をなんとなく察した。
そこから父の核心を突いた言葉が佐武郎の胸をドキリとさせる。
佐武郎は隠し事が下手なのですぐに見破れてしまうのだ。
夏休みに入る前から2学期に突入し運動会の練習期間の今に至るまで
ずっとこの調子で佐武郎は走る練習を続けており、その相手が誰なのか家族には明かしていなかった。
佐武郎「そうだよ!相手は女!宮沢順子って言う!3組の女子!」
佐武郎「あいつ足が速くて運動もできて上のやつと戦えちゃうモンスターみたいな奴なんだぜ!」
佐武郎はありのままに順子ちゃんのことについて表裏なく話した。
しかしある意味順子ちゃんのことを褒めているようだった。
佐武郎の父「ふふ、そうか!それは負けていられないな!」
佐武郎「うん…だからあいつにギャフン!って言わせるために!だから練習しているのさ!」
なぜ走る練習ばかりしているかの理由についても言った。
佐武郎の父「その3組の女の子にカッコいいとこ見せてやりたいってことだな!」
佐武郎「だから違うって!」
わかってくれたのかと思ったらまだ父は勘違いしているようで佐武郎はまたズッコケた。
どうやら佐武郎の父は息子が気になっている女の子がいると思っており
「ギャフン」と言わせたいことについてはカッコいいところを見せて振り向かせたいとそんなふうに思っているのだろう。
佐武郎の父「さて俺も付き合ってやるか!」
佐武郎の父「ちょっくら一緒に外で走らないか?」
父はネクタイを緩め息子の走る練習に付き合うそうだ。
通気性のよいクールビス姿でまさに夏場を耐え抜くサラリーマンのような恰好をしているが
ワイシャツの背とズボンは汗が溜まっている。
その汗を走って飛ばしたいのだろうか夕焼け空の下でのランニングに息子を誘おうとしている。
佐武郎「もうすぐご飯だよ」
佐武郎の父「まあその辺を少し走るぐらいさ」
佐武郎の父「母さん、ちょっと佐武郎と外で走ってくる」
佐武郎の母「え~もう夕飯よ!」
母も息子と同じような反応であり、もうすぐ夕飯だから走るなら後にして欲しそうな返事であった。
家の近くを走ると母に言って息子と一緒に外へ出た。
佐武郎の父「今日はこのへんにしておくか!」
佐武郎「父ちゃん、今日はありがとう!」
佐武郎の父「次はあの子にギャフンと言わせてやれ!」
佐武郎「うん!」
風間家の住宅からその付近をグルっと一周する程度にしてそのまま帰って夕飯となった。
佐武郎の父は陸上選手で負けず嫌いな性格だった。
ちなみに佐武郎の母も陸上選手だったらしく運動神経は父よりも優れていた。
似たような境遇が息子にもあるのだと感じて父は胸がいっぱいになっている。
あのランニングマシンは父が陸上選手時代に使っていたものでまだ使えるため佐武郎に使わせているのである。
夕飯まで短い時間だったが陸上経験者の父かいろいろアドバイスを貰えて充実した練習になった。
明日からも運動会の練習が続くが、練習の成果を発揮し順子ちゃんを驚かせることができるのだろうか。
明日の午前中から体育の授業兼運動会の練習が再開される。
佐武郎は徒競走をやるつもりで張り切っていたがなんだか状況が違う様だ。
時間割が変更されたのか全学年の生徒が集まっている。
佐武郎は目を見開いてぼんやりしていて状況が掴めない様子。
徒競走で背後から順子ちゃんを颯爽と走る馬のように抜き去ってやりたい気持ちだったが今は迷える子羊のようだ。
昨日と同じように徒競走をやって順子ちゃんにリベンジしたかったのである。
今回の練習は個人競技ではなく団体競技の練習する予定のため違う学年の生徒たちが集まっているのだ。
つまり今日は走り合って競うことが目的の徒競走とは無縁だ。
昨日の練習は無駄ではないはずだが無意味だったと思えてしまう。
自分よりも背が高く足も速そうな子がたくさんいて上には上がいると思い知らされる。
実際に並走したわけではないが休み時間で佐武郎はよくグラウンドでサッカーを遊んでいるのだが
上の学年の俊敏な動きに追いつけずサッカーボールを奪うことすらできていなかった。
上の学年とわざわざ徒競走してまで実力差を測らなくもいい。
まずは同じ土俵で順子ちゃんと競うことに専念したいところだが今日はそれができない。
残念ではあるが気持ちを切り替えて、今日行われる団体競技に専念したい。
順子ちゃんはというと友ちゃんと彼女たちよりも背の高い学年の女子と話していた。
順子ちゃんと友ちゃんよりも背が高くて上の学年の女子でさらに仲良しなのは、桂里奈しかいない。
桂里奈は今年の運動会で注目が集まると予想されている。
贔屓はしないだろうが本番当日彼女について観客に向けて言及されると思われる。
桂里奈「順子ちゃんと友ちゃんと肩を並べて協力し合うのは初めてだね。」
友ちゃん「桂里奈お姉ちゃんと同じチームで良かった!」
桂里奈「まあ私も3組だからね」
うさぎのマリーとロージの捜索の時に一緒に協力したが学校行事で共に肩を並べて取り組むのは初めてとなる。
順子ちゃんと友ちゃんは1年生で運動会は初めてだが桂里奈は6年生なのでこれが最後の運動会になる。
つまり順子ちゃんと友ちゃんと桂里奈が共に肩を並べて運動会に取り組めるのは最初で最後になるということだ。
順子ちゃん「優勝間違いなしね!」
友ちゃん「私は桂里奈お姉ちゃんといい思い出を作りたいね」
桂里奈「ふふ、そうね」
有終の美を飾るなら3組チームが絶対に優勝を目指したい。もちろんいい思い出も。
しかし本当に同じチームになれてお互いよかったと思っている。
チーム編成がクラスの組ごと(1組、2組、3組)になっていたため同じ3組だったからこのような組み合わせになり
結果として三人にとって好ましいチーム編成となったのである。
ということは幸助も薫も同じチームであるということがわかる。
だから噂をしなくても幸助と薫は三人の間に自然と入ってきた。
薫「昨日順子がなんかやらかしたか?」
友ちゃん「うん、ルールを守らなくて先生に怒られてた。」
幸助「マジかよ~」
順子ちゃん「え~別にいいじゃない!」
幸助と薫は順子ちゃんと同じチームなのは別にいいとして問題を起こさないか心配だった。
昨日の午後、幸助たち6年生は教室で静かに授業を受けていたが、教室の窓からグラウンドの方で騒ぎ声が聞こえた。
その騒ぎの原因が順子ちゃんではないかと察したのだ。
友ちゃんの言葉で悪い予感は早々に的中した。
しかも厄介なところは順子ちゃん本人は昨日の反則プレーについて全然反省していない。
今後の練習から本番まで先が思いやられそうだ。
桂里奈「もう!順子ちゃん!乱暴なことしちゃダメよ!」
順子ちゃん「え??桂里奈お姉ちゃん??」
真面目でしっかり者の桂里奈は友ちゃんの話を聞いて順子ちゃんの反則プレーに看過することはできず順子ちゃんに強く説教した。
桂里奈「順子ちゃ~ん返事は?」
順子ちゃん「は…はい…」
桂里奈の威圧に負けた順子ちゃん。
幸助「これならなんとかなりそうだな」
薫「いくら順子でも桂里奈には敵わねえか」
桂里奈の存在が順子ちゃんの暴走を止めてくれそうでなんだかとても有難い。
桂里奈は柔道をしているため人格のみならず戦闘力もそれなりある。
正面でやってまともに勝てる相手ではないと順子ちゃんも知っている。
勝つことももちろん大事だが運動会本番当日そしてそれが終わるまで大人しくして欲しいものだ。
家では順子ちゃんは弟の保志がいて姉であるが、彼女にとって本当に必要なのは面倒見のいい年上の姉なのかもしれない。
佐武郎「上の連中とも仲がいいんだなあいつ…」
6年生である桂里奈たちと会話している順子ちゃんの姿を見ている佐武郎。
上下関係はあれど順子ちゃんのことをよく理解されている。
順子ちゃんの周りには心強い味方がいて羨ましく感じた。
昨日の借り物借り人競争で大野先生と一緒に走れたことから順子ちゃんには人を惹きつける力があり
そこでも佐武郎は自分と彼女の差を感じた。
佐武郎の様子を見て気になったのか6年1組の岡崎大吾が彼のもとに来て話しかけてきてくれた。
大吾「あいつらには負けられないな」
大吾「特にお前はあの彼女に」
大吾は佐武郎の方に手を置き、その言葉は昨日の佐武郎の父と似ている。
肩から伝わる大吾の手は暖かくまるで熱を帯びているかのようだった。
ドッチボール大会で大吾は順子ちゃんを圧倒するほどの実力者で桂里奈と同じく柔道をしている。
桂里奈が出場することができなかった柔道のジュニアクラスの大会は彼女の分まで結果を残そうと奮闘していたが
実力がある大吾でも予選で敗北してしまう。
彼もまた上には上がいると強く実感している。
桂里奈の存在が注目されている3組チーム、そして順子ちゃんの存在は厄介だ。
大吾は順子ちゃんの名前を忘れているようだがその存在感は目を離せないようだ。
だけれども他のチームだって負けてはいられない。
佐武郎の闘志は順子ちゃんに向けてのものだが、彼の闘志はチームの士気を高めてくれる。
大吾も同じ6年生だからこれは最後の運動会になる。
だからただやってただ終わらせたくはない。
佐武郎と肩を並べて優勝を狙いたい。
ドッチボール大会では順子ちゃん以外で目立っていた1年生が佐武郎で、大吾は同じチームだったので顔だけは覚えていた。
佐武郎「俺は風間佐武郎っす…」
佐武郎「そしてあいつが宮沢順子っす」
名前を覚えてなさそうなので佐武郎は順子ちゃんの名前を含めて大吾に名乗っておいた。
ドッチボール大会はたった1日の出来事であり、6年生は覚えることもいっぱいあるのだろうから名前を覚えてる暇はなんかないのかもしれない。
この運動会で結果を残して思い出と共に名前を覚えてもらいたいところではある。
大吾「俺は岡崎大吾だ、よろしく」
佐武郎「はい…大吾さん」
佐武郎が自己紹介したからだと思われるが大吾も自分の名前を佐武郎に教えた。
ちなみに佐武郎も大吾の名前は今日まで知らなかったしドッチボール大会では彼の名前なんてわからなかった。
大吾の佐武郎に対して励みは学年は違うが同じチームメイトとして一緒に頑張ろうという意味なのだろう。
とりあえず佐武郎にも心強い味方がいてくれた。
さては話はここまでにして最初に練習する競技は玉入れとなる。
一定の高さに設置されたかごに向けてチームごとに玉を投げ入れ制限時間内にいくつ玉が入ったのかを競うことが玉入れである。
今回の玉入れの練習でかごを持つチェッカー役になるのが、
1組チームで4年2組担任の佐竹先生、2組チームで1年1組担任の大野先生、3組チームで6年3組担任の牛久先生である。
牛久先生「幸助、薫、俺にわざと玉当てたら許さないからな~」
牛久先生「板倉先生も見てるぞ~」
板倉先生「しっかり見ておきますよ!」
幸助「え~なんで、もうそんなことしませんってー!」
薫「なんで俺も入ってんすか~」
幸助の発言はまさに確信犯である。
高い位置にあるかごに向けて玉を投げ入れするがかごに入れず落下した玉が人に当たってしまうことはよくある。
チェッカー役はかごを支える棒を両手で支えているため無防備な状態のため狙えば確実にヒットする。
過去に玉入れの時にわざとかたまたまかわからないが幸助か薫の投げた玉が
その時チェッカー役だった板倉先生にストレートに直撃してしまったのである。
牛久先生は水戸東小学校で今年教員として就任されたためこの学校の運動会は初めてになるのだが
板倉先生から事前にこのことを伝えられているため幸助と薫のことを警戒しているのである。
2学期からは大人しい幸助と薫の二人だが、悪戯好きの双子悪魔、金閣と銀閣と呼ばれた過去の悪行は未だ尾を引いているのだ。
この罪は小学校を卒業するまで運ばなければいけないだろう。
順子ちゃん問題を起こさないか心配していた幸助と薫だが
まずは二人の方が先に襟を正すべきでことわざで例えるなら人の振り見て我が振り直せである。
それでは玉入れの段取りについてだがグラウンドの中央にかご(チェッカー役三人)を3つ配置し
参加チーム(1組、2組、3組)はそれぞれ端の方で待機する。
参加者はかごに入れるための玉を2つ両手で持っている状態にする。
ホイッスルなどのスタートの合図が出たら一斉に参加者は走り出して制限時間内にかごに玉を投げ入れする。
ここからは得点についてのルールとなる。
チームごとにかごが色分けされており、1組チームのかごは青色、2組チームのかごは黄色、3組チームのかごはピンク色である。
玉入れで使う玉の色は白と赤の紅白玉であり、かごの色の3色とは被らないようにしてあるため
どのチームの参加者が入れた玉の区別ができないようになっている。
だからもし違うチームのかごに間違って入れてしまった場合はその相手チームの得点になってしまう。
チームごとに得点対象となるかごに玉を入れることが基本となる。
運動会の玉入れ用の「紅白玉」は外側はナイロンで中身はポリエステル発泡体が入っている。
ポリエステル発泡体は弾力のあるスポンジでギュっと拳で握りしめて凝縮しても元の形に戻る反発力があり
当たっても痛くない素材でできている。
子どもの小さな腕力で投げられた玉が当たってもさほど痛くはないが
故意に強い力で投げつければ流石に痛みは感じてしまうだろう。
参加者が持っている玉全てがかごにはいることはないはずだが一応予備の玉は十分用意されている。
かごに入らず地面に転がり落ちた玉を拾って再利用することはもちろん可能だが
踏んでしまい躓いて怪我をしてしまう恐れがあるため注意すべきだ。
スタートの合図のホイッスルが鳴り、いよいよ玉入れの練習が始まり全校生徒は一斉にグラウンドの中央へ走り出す。
まだまだ続きそうだが順子ちゃんはどんな活躍をするのかそれとも問題を起こしてしまうのだろうか。
続く
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