第61話 力を合わせる綱引き
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台風の目では順子ちゃんの暴走がよからぬ方向へと巻き起こし
幸助だけでなくチーム全体を敗北へと吹き飛ばし茂みの方へと落下させた。
牛久先生の説教と桂里奈の表情から隠しきれない順子ちゃんとペアになることに対する拒絶を感じ
順子ちゃんは改心しチームプレーの大切さとルールを守るという重要性を理解しようとしている。
しかし幸助も自分の実力を十分に発揮できなかったことを認めお互い謝罪した。
そして次の台風の目ひいては本番ではお互い全力で取り組むことを約束する。
次の団体競技は綱引きである。
これが本日最後の練習になる。
グラウンドの中央に一本、大きな綱が置かれた。
堂々とグラウンドに置かれた綱は再び綱引きという役目を得て双極が力を行使し引かれ合うのを待ちわびている。
そして己の力を存分に発揮し掌握されることもこの綱は望んでいる。
綱引きとは2つのチームが1本の綱をお互いに引き合い、
相手を引き込んで勝敗を競うつまりは力比べをする団体競技なのである。
みんなで1本の縄を持って引っ張り合うため、一人一人の持つ力を合わせること重要で
よりチームプレーが試される競技になっている。
チームで取り組むことへの重要性を理解しようとする順子ちゃんにとってうってつけの団体競技だ。
本当にタイミングがいいとも言える。
また順子ちゃんの身体能力も十分に発揮できるそうだ。
1組チームと2組チームの生徒たちもかなり強豪揃いだが3組チームもみんなで力を合わせていきたい。
綱引きでは2チームずつ対戦するためドッチボール大会のように3チーム総当たり戦となり3試合行われる。
1組チーム対2組チーム、1組チーム対3組チーム、2組チーム対3組チーム、以上の組み合わせ。
ちなみに綱引きはPTAつまり大人や保護者が参加するものもある。
これも総当たり戦なので合わせれば6試合行われることになる。
牛久先生は順子ちゃんの肩に手を置いた。
牛久先生「次の練習は綱引きだ。」
牛久先生「思いっきりやってくれ!」
順子ちゃん「はい!」
牛久先生は順子ちゃんに本気を出すように支持をした。
前回の台風の目ではいろいろ注意されたが今回の綱引きで萎縮して本来の実力を引き出せなくなってしまってはいけない。
順子ちゃんは気をつけると言って反省しており、今後運動会の本番に向けてどう取り組むのか
それは彼女次第ではあるが、よりルールに忠実になるだろう。
運動会で扱う競技は全て初めての1年生でも直感的に取り組めるようにルールを設計され単純化されている。
その単純なところが自由度を高めているが順子ちゃんは個人でそのルールの枠を超えるほど暴走している。
綱引きは両腕で綱を引くだけのでいいがもちろん奥深さもある。
簡単なルールだが言い換えればやることが制限されている。
この制限されたルールの中でルール違反を犯そうというのなら足でも歯で引っ張ってみろということだ。
だから釘を指すように順子ちゃんに注意しなくてもよいのであり、寧ろ全力を出し切ることが必要な競技なのだ。
幸助「こればかりは順子の力が必要だな。」
友ちゃん「一緒に頑張ろうね!順子ちゃん!」
桂里奈「力を合わせて頑張りましょう!」
薫「こんなところで落ち込んでいる場合じゃねえもんな」
順子ちゃん「薫、幸助、友ちゃん、桂里奈お姉ちゃん!!」
みんなの言葉が順子ちゃんの励みになる。
特に桂里奈の力を合わせようと言ってくれたのが順子ちゃんにとって沈みかけた心を再起させてくれた。
ここまで桂里奈の言葉が順子ちゃんの胸に届いたのは、桂里奈と共闘することを望んでいたのだ。
台風の目では幸助とペアになったが、綱引きなら同じ綱で互いにいやみんなで力を合わせて戦える。
これで順子ちゃんもチームで協力する意味をこの綱引きでさらに理解を深められる。
一人一人の力が必要不可欠だから幸助の言う通り順子ちゃんの力が必要だ。
練習の中でチームの指揮が高まるのは好ましいことで本番では実力以上の力を発揮されることが期待される。
順子ちゃん「よし!頑張るわよ!」
清水先生「その前に1組チームと2組チームが先ですよ!」
順子ちゃん「は〜い」
さっそく思う存分力を出したいところではあるが
まずは1組チーム対2組チームの綱引き勝負が先だ。
順子ちゃんは1組チーム対2組チームの綱引き対決を見て綱引きとは何なのか改めて理解するべきだ。
3組チームの生徒たち全員グラウンドの端でしゃがんで待機し1組チームと2組チームの綱引きを見届ける。
チームの要はやっぱり6年生になるだろう。
1組チームでは大吾がいて2組チームに豪がいるなど運動神経もあって体力もある。
6年生以外にも5年生や4年生などポテンシャルを秘めた子が勢揃いである。
しかし玉入れ、大玉転がし、台風の目と団体競技の練習をしてきたため彼らから疲労の色が出ていた。
本番になればもっと大変で今日の団体競技だけでなく個人競技もありさらにエキシビションもある。
上級学年ほど余裕はあるが1年生のような下の学年は疲れ切っているようで
お昼の給食を思い浮かべお腹を空かしていた。
ちなみにこの午前中の体育の授業兼運動会の練習は3、4時間目の時間帯を設けて
全校生徒でグラウンドに集まっているのである。
だからこの綱引きが終わればちょうど給食の時間だ。
順子ちゃんのお腹も虫が鳴くほど空いている。
順子ちゃんはまだまだ余力がありそうだが空腹には抗えない。
これが終われば給食、それが彼らに綱を握らせる力になっているはずだ。
綱引きの勝敗はいかに自陣に相手チームを引きずり込めたかになるがちゃんと明確なラインが設けてある。
綱の真ん中に赤いタオルが巻かれていて、両側にカラーコーンが置かれている。
赤いタオルは途中でほどけないように強く縛られている。
この赤いタオルが両方に配置されたカラーコーンのどちらかに到達した時に勝敗が決することになる。
いよいよ2チームとも全員が綱を持ってお互いが引き合う準備が整った。
スターターピストルが鳴り1組チームと2組チームが縄を引っ張り合った。
この綱引きで勝利したチームは1組チームであった。
敗北した2組チームは悔しそうな顔をしていた。
中でも豪は相当悔しそうな顔をしていて大吾を睨み付けた。
それに対し大吾は豪を見つめ腕を組み不敵な笑みを浮かべた。
ドッチボール大会でもライバル的な関係を見せていた二人。
まさにこの運動会でチーム同士の対立構造を表しているようだ。
今度は1組チームと3組チームの対戦となる。
次の綱引きも1組チームがするのだからグラウンド内に残したほうがいいのだろうが
生成たちの指示で1組チームは一旦グラウンドの外に出ていった。
先生たちの狙いとしては綱を引くポジションを変えることらしく
1組チームが右側を引いていたため今度は3組チームとの綱引きでは左側を引くようにするためである。
単なるポジションチェンジだと思われるが、2組チームとの綱引きで右側を引いたから
1組チームは右側に引っ張る力が強くなっていると考えられている。
加えて右側を引っ張って2組チームに勝ったということは
1組チームにとって右側で綱を引くことはもっとも力が入りやすく有利なポジションになっているとそう解釈できる。
科学的根拠はないが公平性を保つことに重きを置いて
それぞれチームは各2試合ずつ行うから両側を引かせたほうが不公平はないはずだ。
いよいよ3組チームが縄を引く番が訪れた。
本日の3組チームの団体競技の結果は散々なものになっていてどれも1位を獲得できていない。
これが本番だったら悲惨であり、桂里奈に涙を呑むような運動会にはチームとしてはさせたくない。
順子ちゃんの暴走のせいばかりにしてはいけない。
今こそ3組チームの団結力を他の2チームに見せつける時だ。
グラウンドの中央に3組チームと1組チームが持ち場についた。
1組チームには順子ちゃんを一方的にライバルだと決めつけている佐武郎がいて彼女を睨み付けている。
反省して少し成長した順子ちゃんは昨日の個人競技でぶつかり合った佐武郎に対し
実力を認めつつあるが今日はより正面で彼と向き合っている。
綱引きだからこうなっていると思われるが。
3組チームは右側を引き、1組チームは左側を引く。
チームで引くポジションは決まっているがチーム内で生徒がどこの縄を引くか決まっておらず
空いているところに自由に綱を引っ張っていいとされている。
つまりチームでどこの綱を引くのか作戦会議が行われるのである。
綱引きで勝つコツとして腕の力だけでなく何度も言うように仲間とみんなで力を合わせ
体重とタイミングを合わせることである。
並べ方についてだが一般的に背の高い人や体重のある人は後ろにして
背の低い人か前へつまりは縄の中央のほうへ並ばせたほうがいい。
作戦会議が行われ生徒同士で話し合いどこに並んで縄を引くのが最適なのか
一般的な考え方からすれば6年のほうが他の学年よりも体が大きい傾向なので後ろに並び
1年生は前のほうに並んだほうがいいのかもしれない。
話の中心はやはり上級学年である6年生である。
ドッチボール大会のように薫が指揮を執る。
薫「やっぱり俺たち6年生は後ろで引っ張るべきかな」
桂里奈「力を均等にするのは大事だから私たちの6年の誰かが前に並んだほうがいいわよ」
薫「なるほど」
柔道経験者の桂里奈の意見は参考になり薫は納得したかのように頷く。
薫「よし!なら桂里奈は前の方引っ張ってくれ!」
桂里奈「OK!了解!」
薫「1年も前の方で引っ張ってもらおうかな」
薫「順子も桂里奈と一緒に引っ張ってくれ」
桂里奈の提案を素直に聞き薫は桂里奈を前の方に並んで綱を引く配置にした。
桂里奈が先頭に立ってチームを引っ張っていく姿がまさにこの綱引きで実現するのだ。
順子ちゃん「ありがとう薫!」
友ちゃん「やったね順子ちゃん!」
順子ちゃんは喜んで薫の指示に従った。
順子ちゃんと友ちゃんは間近で桂里奈と共闘することを望んでいてその夢が叶おうとしていた。
綱引きの並び方の必勝パターンに沿ったものなのでこうなることは必然であった。
6年生と5年生その他以下の学年で背が高い子や体重がある子が後ろに偏って配置せず
バランスよく前と後ろに数名配置し、2年生から4年生も体格や体重に合わせて配置についた。
そして両チーム準備が整った。
スタータピストルがグラウンド中に響き渡り両チーム綱を引っ張り合う。
薫「せーの!!」
3組チームのみんな「せーの!!」
順子ちゃん「せーの!!」
薫の号令とともにみんなで息を合わせて六十人で綱を引っ張る。
順子ちゃんも薫の号令を聞いてみんなで「せーの!」と叫び綱をみんなと同じタイミングで引っ張る。
もし反省していなかったら、暴走を続ける順子ちゃんは薫の指示やみんなと力を合わせずに綱を引っ張り
タイミングが合わないどころか誰かが躓いて怪我をしてしまったかもしれない。
これだけでも順子ちゃんは成長したと言える。
チームと力を合わせることに重きを置いた順子ちゃんだが
持ち前の身体能力をこの綱引きで遺憾無く発揮しそれが相手チームに通じるのだろうが。
順子ちゃん「おりゃー!!」
順子ちゃんの気迫とともに力強く引っ張り、1組チームの何人かは前へと体が傾いていく。
赤いタオルは少しずつ3組チームの陣内の方へ引き込まれていく。
このまま赤いタオルが3組チーム陣内のカラーコーンに到達すれば3組チームの勝利となる。
3組チームの勝利と思われたがここで1組チームが粘りを見せる。
1組チームの足に接着剤でも貼ったのか、もしくは彼ら不動の大岩と化したのか3組チームの動きがピタリと止まる。
順子ちゃん「うお!ぐぐぐ!」
薫「くそ!」
そして1組チームの反撃である。
大吾「いくぞ!せーの!」
1組チームのみんな「せーの!」
6年生の大吾の号令と共に1組チーム六十人が一斉に綱を引き3組チームを自陣へと引きずり込む。
油断していたところを突いてきたのか3組チームは勝ちを確信し気が緩んでいたのは事実だ。
1組チームには桂里奈と同じく柔道をしていて実力もある大吾がいて彼がチームを率いている。
そして今は順子ちゃんを追いかけている立場ではあるがこれから順子ちゃんの脅威となるであろう佐武郎がいる。
それだけでなく他の学年からも強者が集っている。
順子ちゃんは並大抵の生徒よりも力があるのは確かだがどれだけ差はあるのか数値で図ることはできない。
体格やその人の握力にもよるが、仮に順子ちゃんと体格が同じくらいで非力な子でも
複数人なら順子ちゃんを抑えつけることは可能なはずだ。
優勢から劣勢となった3組チーム、優勢に転じた1組チームは
六十人いる中の順子ちゃんを抑えつけるため、いったいどれだけの人数が比重を置いているのだろうか。
上の学年の何人かが順子ちゃんを抑えつけているかもしれないし
もしかしたら佐武郎一人で順子ちゃんを抑えているのかもしれない。
この縄には数値では計り知れない2チーム合計百二十人の力が働いている。
綱引きは網一本を自陣へと引きずり込んで勝敗を決する団体競技でとてもシンプルな内容だが
それは奥が深く一筋縄ではいかない。
順子ちゃん「負けてたまるかー!」
桂里奈「みんな!力を合わせるよ!」
桂里奈「せーの!」
3組チームのみんな「せーの!!」
3組チームのみんなが力を合わせ引っ張り、順子ちゃんの力も合わさり爆発的な張力を引き起こす。
赤いタオルは3組チームのカラーコーンに到達し勝ったのは3組チームである。
ホイッスルが鳴り試合終了の合図が響く。
順子ちゃん「やった勝った!」
桂里奈「もう!声が大きいって!順子ちゃん!」
団体競技で3組チームで初めての勝利である。
順子ちゃんは勝利の雄たけびをあげる。
その光景をグラウンドの端で見ている先生たち。
1組チームに勝利した3組チームはグラウンドの端で見ていた2組チームにとっては脅威となるだろう。
牛久先生「また一つあの子は成長しましたね。」
清水先生「はい、ありがとうございます牛久先生!」
順子ちゃんの成長を見て指導した甲斐があったと自負する牛久先生。
清水先生は今後の自らが掲げる教育方針のあり方を見つめ直す一方で
来年の順子ちゃんの担任の先生は牛久先生になるのではないかと未だに淡い期待を抱いている。
佐武郎「くそ~負けた~」
個人戦でもチーム戦でも順子ちゃんに負けた佐武郎にとっては屈辱だろう。
仲間と協力する大切さを学んだ順子ちゃんはさらに強くなっており
さらに手強くて大きな壁として佐武郎の前に立ちはだかった。
次は2組チームと3組チームの対戦となる。
3組チームは左側で2組チームは右側を引っ張る。
3組チームの快進撃が続き2組チームは自陣に3組チームを引きずることができずあっさり敗北してしまった。
豪「くそ~3組チームめ~また負けた~」
幸助「へへ!勝ったぜ!」
豪「本番は必ず勝ってやるからな~」
悔しそうでかなりくしゃくしゃな顔をしている豪。
よりチーム力が試される綱引きでも負けたがドッチボール大会でも3組チームに負けている。
2組チームもこのまま負けっぱなしではいられないため本番は必ずリベンジを果たしたいだろう。
もちろん1組チームもこのままじゃ終わりたくないはずだ。
全競技で1位をとりどのチームよりも強いことを証明したいのである。
今回の綱引きで2組チームは1組チームに負けて全敗と散々な結果であった。
しかし今回の団体競技の練習で2組チームは
玉入れと台風の目で勝ち点をいただいているためそこまで悔しがる必要はないだろう。
やっと3組チームは最後の綱引きで勝ち点をなんとか獲得できたのだ。
3、4時間目の授業兼本日の運動会の練習が終了した。
初めての運動会となる1年生もこの練習を通して全体像が見えてきたはずだ。
校内に生徒たちが戻りながら牛久先生は順子ちゃんと今日の振り返りをしていた。
牛久先生「チームで協力する大切がわかってよかったよ」
順子ちゃん「ありがとうございます」
順子ちゃん「私、自分勝手に突っ走っていました」
友ちゃん「順子ちゃん…」
幸助「まあ気づいてくれればそれでいいじゃねえか」
幸助は体操服に付いた土を掃いながら順子ちゃんの反省を優しく受け入れた。
清水先生「これからは気を付けてくださいね」
順子ちゃん「はい…」
順子ちゃん「あの…牛久先生?」
牛久先生「うん?」
順子ちゃん「桂里奈お姉ちゃんとペアになるのは無理ですか?」
順子ちゃんの言葉に周りはズッコケた。
台風の目のペアを桂里奈と変更したいと牛久先生に相談する順子ちゃん。
「いい子になるから」、「何でも言うこと聞くから」という意味が込められた
無邪気な視線を牛久先生に送る。
牛久先生「そんな都合が良くそうなることはないよ!」
しかし牛久先生はそれに惑わされることはなかった。
桂里奈「まったく…順子ちゃんは!」
桂里奈「私は良樹君とがいいわ!」
順子ちゃん「え~そんな~」
桂里奈はきっぱりと順子ちゃんと台風の目のペアになることを断った。
順子ちゃん「仕方ない、幸助とやるか!」
幸助「おい!仕方ないってなんだよ!」
桂里奈「フフフ!ある意味二人がお似合いだね!」
牛久先生「そうだな!ハハハ!」
清水先生「ですね!フフ…」
薫「ハハハ!」
友ちゃん「フフフ!」
こんな感じで校門へ戻る一行は笑顔で包まれていた。
順子ちゃんたち1年生にとって初めてであり、桂里奈たちにとって最後となる
運動会の本番の日が近づこうとしていた。
続く
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