ジュンコチャン

第63話 葛藤と成長と…

※この小説にはプロモーションが含まれています。

6年3組の運動会に向けた会議では幸助の薫に対する嫉妬心や悩みを解消するべく
幸助をチームリーダーにする提案が出される。
幸助にとっては返答に困る提案であるが彼はそれに応じるのか。

6年3組教室のクラス全員、幸助に視線を集中する。
面白そうに見つめる尊と悠太、呆れつつも幸助の返事を待つ女子たち
その一方で桂里奈と薫の表情は真剣だった。
この独特の空気感は幸助の心情を表しているかのようだった。
運動会で結果にこだわらず無難に且つ消極的に活動する自分と
チームの中心となってそれすなわちリーダーとしてみんなを引っ張り活躍する自分が
同時に幸助の脳裏に浮かび上がる。
もしあの時、この運動会で自分がリーダーをやっていたら
誰しもが思う物語の主人公が自分だったらと。
物語の主人公までとはいかないが、あの時やっておけば良かったという後悔は絶対にあるはずだ。
薫と桂里奈の存在は幸助にとっては嫉妬するほど眩しく物語の主人公ように
この運動会の3組チームの中心になっている。
薫と桂里奈と同じ時を過ごしてきたはずなのにここまで差がつくとは思いもしなかった。 幸助ももちろん負けておらずドッチボール大会で牛久先生と板倉先生の指導の下、
スピードボールを完成させ活躍したのも記憶に新しい。
しかし内面の変化や成長は薫と桂里奈の方が幸助よりも前に進んでいると幸助自身がそう感じているのだ。
二人に置いて行かれたくないそれが幸助の中にある悩みであり
悠太から薫に置いて行かれてしまうという言葉を直接彼の心を突き刺すものでもあったのだ。
学校行事だから仕方なくやっている、たかが運動会で熱くなるなと思いたくなるし
幸助としては運動会というイベントは正直やりたくないのである。
けれども薫と桂里奈を始め周りは本気モード、6年生だからこの運動会が最後になるからだろうが
こんなにも躍起になって汗水垂らしてまで取り組むことなんてないはずだ。
周りがやる気だから仲間外れにされたくないからとか浮きたくないとかで
幸助と同じ気持ちを抱えているけど同調圧力でやる気のある薫や桂里奈側に立っている。
学校行事に積極的な生徒ほど学校側ないし先生たちにとっては評価が良いのは決まっている。
リーダーシップを発揮している薫の周りの評価や印象がいいし、
同調圧力かなんかで賛同しているクラスメイトが余計でそれが幸助が悩みや葛藤の原因になっているのである。
だが悔いが残るような運動会だけはしたくないのは幸助の気持ちのどこかにある。
その気持ちを引き出すかのように薫のリーダーを譲る提案は幸助の心を揺さぶる。
幸助はみんなの視線からそらし下を向く。
チームのリーダーをやるのかやらないのかなんだかどっちつかずである。
景子「リーダーやるの?やらないの?」
再び景子は幸助に問いかける。
すぐに決断ができない幸助を見て苛立ちを覚える女子が中にはいた。
そんな中、薫は幸助の返事を待っていた。
幸助「う~ん、なあ…そもそも運動会にリーダーって必要か?」
景子「え!?」
尊「まあ~言われてみれば」
数秒間、自問自答した末に幸助が気付いたのはリーダーの必要性だった。
運動会はあらかじめ学校側から指定された競技とルールと従って取り組むだけなので
必ずしも運動会にリーダーは必要はないだろう。
得点を競うチーム戦のため、もちろん駆け引きの中でリーダーの采配が勝敗を決することもある。
この前の綱引きの練習で綱を引く配置を巡って薫が中心で作戦を立てていたのが
リーダーの必要性を際立たせてしまいこのようなチームリーダー議論へと発展してしまったのである。
幸助はリーダーシップを発揮する薫に嫉妬心があるのは本当のことであり
それ以前に目立って注目されてまた評価されるのが気に食わないのだ。
幸助「なあ~薫~リーダーなんてやんなくていいんじゃないか?」
薫「別にやりたくてやっているわけじゃないんだよね。」
薫「でもなんかそういう流れにはなっているよな」
幸助の疑問に薫も理解しているようで気まずそうにみんなに視線を向ける。
薫も好きでリーダーをやっているわけではないようだ。
だから幸助にチームのリーダーを任せる提案も自然と出てくるのである。
夏帆「リーダーするかしないかは置いといて、真面目にやってくれればそれでいいんだけど」
幸助「俺そんなに真面目にやってないのかよ?」
夏帆「あんたのその態度見ているとそう感じちゃうのよ」
幸助なりにも頑張ってはいると思われるが、少なくとも幸助と周りの温度差があるのは感じられる。
真面目にやっているのならリーダーの必要性について疑問を持つことなんてないはずだ。
幸助の性格上、素直にチームのリーダーを引き受けるとは言えないだろうし
その気になるまでは時間がかかってしまう。
チームリーダーをするかしないかをはっきりした上で
幸助の場合は台風の目であの順子ちゃんのペアとなっていて大トリを任されているため
「台風の目は俺と順子で任せろ」みたいな運動会の協議に対して意気込みを見せれば
周りからの印象は変わっていたに違いないだろう。
チームリーダー議論が保留になりそうだが薫は幸助の嫉妬心によって気まずくなり消極的になってしまう。
運動会に対するやる気という意味を考えればまず幸助は薫に心を許し
薫のリーダーとしての活躍を見届けつつも自分のやるべきことはやると決めれば
少なくとも夏帆たちにやる気がないと言われなかった。
その方が誠実さも見られ薫も気持ちよくチームをまとめる役を演じられるはずだ。
この教室に漂う混沌とした空気を浄化するには
幸助が素直に3組チームのリーダーをすると決断するか
薫に謝って自分のやるべきことひいては台風の目を始め
3組チームの勝利に準じた活躍をするとこの場で宣言させるしか他に選択肢はないだろう。
薫はため息をつき静かに自分の席に戻り腕を組んで窓の景色や教室の黒板を首を動かさず目で交互に見ていた。
何も書かれていないまっさらな黒板と窓に映るいつもと変わらない景色。
ただ普通に薫はそれを交互に見つめているだけではなくきっと未来を見据えている。
幸助「か…薫…」
薫の機嫌を悪くさせてしまったのか申し訳なくなる幸助。
悠太「まさか拗ねちまったか薫?」
尊「早いとこ決めた方がいいぞ幸助!」
その薫の身振りは幸助から感じた嫉妬心に対して沸いてきた複雑な思いを紛らわしているとも解釈できる。
不服そうに見えるがきっとまだ幸助の返事を薫は待っているのだろう。
少しでも関係を修復したいなら早いところ決断するべきだ。
しかしシャッターの鍵が閉まっているかのように幸助の口はなかなか開かない。
幸助「えっと…なあ…薫、リーダーの件なんだが…」
幸助「時間をくれ!牛久先生に相談してみる!」
幸助の返事にみんなズッコケ、薫の首はガクッと傾いた。
桂里奈「なんで牛久先生と相談するんだよ!必要ないでしょ!」
薫「はは…そうか」
薫は幸助の返事に呆れつつ少し笑いが込み上げた。
シャッターの鍵が開いたが営業予定日が未定ならぬ幸助のリーダー就任の宣言はまだのようだ。
尊「牛久先生に背中を押してもらおうって魂胆か?」
尊「お前自身が決めちまえばいいんじゃないか」
幸助「けど…先生が薫のほうがいいって言われるのも否定できないじゃん」
桂里奈「あのね、リーダーが相応しいとか相応しくないかじゃなくて」
桂里奈「自分がやるかやらないか、その自分の気持ち次第なのよ」
幸助の考えていることはみんなお見通しだった。
リーダーをやるかやらないか自分では決断できないから牛久先生に背中を押してもらおうという幸助の考えもわからなくもない。
3組のチームリーダーは薫のほうが相応しいという幸助の懸念だが
牛久先生がそう言うかどうかは不明でも、幸助自身が結局リーダーをやるかやらない自分次第なのである。
薫「幸助はこういうのには時間がかかるって俺知ってるし」
薫「明日まで待ってやるよ」
幸助「おう!ありがとな薫!」
薫は幸助の返事を明日まで待つそうである。
本来なら早く決めてほしいし、周りはなんだか腑に落ちなさそうであるが
同時に薫の寛容なところがリーダーとしての器のデカさを表しているかのようにも見えた。




授業の終わりに幸助は牛久先生に相談し二人で3組チームリーダーについて話し合う時間を設けてくれた。
6年3組教室は幸助と牛久先生の二人っきりと思いきや
なぜか6年2組の担任の先生の板倉先生も話に参加していた。
事情は牛久先生から聞いているようで進まないチームリーダー議論と
幸助の薫に対する嫉妬心や彼自身の葛藤が6年3組全体を混沌にしているようで
それに見兼ねた板倉先生もこの話に参加してくれたのだ。
板倉先生「ドッチボールの時の薫のことをまだ引きずっているのか?」
板倉先生「こっちも豪が自慢のボールを下の学年に止められたこと根に持っているんだぜ」
豪に世話を焼いている板倉先生の苦労も垣間見えるがこうして幸助のことにも向き合ってくれているのは
板倉先生も幸助のことが心配なのである。
板倉先生「リーダーやってみればいいんじゃね?っての結論なんだが」
板倉先生「教室を貸し切ってこうして先生と話す場を設けてまでどうしたんだよ?」
幸助「本当なら自分から言うべきなんですけどどうしても自分から言えなくて」
板倉先生「それでこんな形で牛久先生と」
板倉先生「牛久先生はどうなんですか?」
牛久先生「私も板倉先生と同じくですがリーダーをやるかやらないかはやっぱり自分で決めるものだと思います」
二人の先生から出たことは桂里奈と同じくリーダーをやるかやらないかは自分で決めろということだった。
しかしやってみればいいんじゃないかという板倉先生の言葉は悩んでいる幸助の背中を押しくれたはずだ。
牛久先生も同意見であり、生徒が主体性を持って何かに取り組むことは喜ばしいことであり
教師として幸助には選択の余地を与えつつもいろんなことに挑戦してほしいということなのだ。
幸助「じゃあ…俺が3組チームのリーダーやっていいんですね?」
牛久先生「うん、もちろん」
牛久先生は幸助がチームリーダーをすることに賛成意見である。
板倉先生「あ…そういえば…なるほど!」
板倉先生は当時のドッチボール大会を思い出す。
それは3組チームのリーダーを薫に指名させたことである。
もしかして幸助も薫と同じように3組チームのリーダーに指名してもらいたいと思っているのではないだろうか。
板倉先生はそう気づいた。
板倉先生「いいぞ、幸助!お前を運動会の3組チームのリーダーに指名する」
幸助「板倉先生!?」
6年2組の担任でありながら板倉先生はきっぱりと幸助に3組チームのリーダーに指名した。
板倉先生「これで文句ないだろ幸助?」
牛久先生「どういうことですか板倉先生?」
幸助のリーダーの決断を後押しすることが目的なのだろうが、
もちろん牛久先生自身も幸助に3組チームのリーダーをやらせたい気持でもあるが
何の議論も交わさず間髪入れずに幸助をリーダーに指名した意図がまだわからなかった。
これが板倉先生の教育の流儀なのだろうか。
板倉先生「思い出したんだけどさドッチボールの時、薫をリーダーに指名したのは俺だったな」
牛久先生「そうでしたね…」
牛久先生も当時のことを思い出す。
当時桂里奈が不在の3組チームは纏まりがなかった。
その時立ち上がったのが薫で、チームを纏めようとした薫の姿に板倉先生は彼をリーダーに指名したのである。
しかし6年1組チーム対6年3組チームのドッチボール対決の時に
1組チームの防御を崩すための薫の作戦を巡って幸助を中心に3組チーム内で対立があった。
その対立を止めるため板倉先生が幸助を試合中にも関わらず一旦退場させたのである。
そして幸助の悩みを聞いたうえで板倉先生は牛久先生を呼んで
薫たちや相手チームを見返すため二人の先生の指導の下、スピードボールを編み出し
1組チームには負けてしまったが豪率いる2組チームには見事勝つことができたのだ。
板倉先生「俺から言わせてもらうとお前も十分活躍していると思うんだけどな~」
板倉先生「それなのに欲張りだな~幸助は」
ドッチボール大会で進行役も審判役を務めた板倉先生だからこそ言えるが幸助も十分活躍しているのである。
幸助の内面を理解しているわけではないが薫と比較すると見劣りしているのだろうと板倉先生はそう思っている。
牛久先生「けど幸助たちにとってはこれが最後の運動会なんですよね…」
板倉先生「欲張りって言ったのはちょっと悪いな幸助…」
板倉先生「そうだな…幸助も今年で最後の運動会になるのか…」
寂しそうに板倉先生は語り出し、幸助に向けて欲張りといったことを謝罪した。
欲張りと言われてもこれが幸助にとっては最後の運動会なので彼には後悔なんて一つもさせたくない。
運動会ではもっと見せ場をだしていきたいのならここで幸助の背中は押してリーダーをやらせることにも一理ある。
牛久先生「もう運動会真っ只中なのにまだドッチボール大会の余韻があるなんて」
板倉先生「今年のドッチボール大会は過去よりも印象に残るものがありましたからね」
板倉先生「この学校にもいろんな行事がありますが」
板倉先生「特にあのドッチボール大会は運動会の前哨戦みたいなもんですから」
牛久先生「なるほど、運動会こそが正真正銘の本番ということなんですね!」
今年のドッチボール大会は1年生である順子ちゃんが活躍していたこともあってか
総評すると板倉先生が言うように印象に残るものであった。
ドッチボール大会が始まった時から運動会に向けた戦いはすでに始まっていて
1年生から6年生の全学年が参加する都合上、6年生がその競技の中心になりやすく
自ずと6年生たちは主体的になり経験と成長を得て、今後に影響されていく。
この経験と成長が活かされるのがまさに運動会なのである。
だから牛久先生も板倉先生もそしてこの学校にいる全員の先生も
今年で幸助たちは最後になる運動会で、彼らが運動会に向き合いにそして自分と向き合い本気で臨んで活躍してほしいのだ。
チームリーダーに幸助は相応しいか相応しくないかなんて考えている余裕なんてものはない。
牛久先生「幸助やるのか?リーダー?」
今度は担任である牛久先生は幸助に3組チームのリーダーになるかどうかを問う。
幸助「やります!」
板倉先生「よく言った!」
先生から激励でようやく幸助は3組チームのリーダーになることに決心がついたようだ。
この流れで断ることは幸助もできず後戻りはできないということもあるはずだ。
幸助の中にはそういったプレッシャーや悩みが全て解消されたわけではない。
幸助「まあ俺がリーダーになっても勝てるかどうかはわかりませんけど」
自分がリーダーになったからと言って優勝できるかどうかはわからないので
あまり期待しないでほしいという幸助なりの保険でもあった。
牛久先生「それはやってみないとわからないさ」
板倉先生「勝ち負けよりも真剣に取り組んでいるかどうか俺たち先生はそれを評価する。」




板倉先生「幸助がやる気になってくれたから俺からいい情報を与えてやる。」
いい情報とは1組チームと2組チームの動向であり
まずは1組チームは大吾とその担任の服部先生の話を耳にしていて
台風の目では幸助と順子ちゃんのペアに対抗するため大トリになることを相談していたようで
現在順子ちゃんをライバル視している佐武郎がいて偶然にも大吾は彼とペアになっている。
個人的な都合かもしれないが大吾は佐武郎に順子ちゃんと正々堂々戦わせ
さらには自分もその同じ土俵で佐武郎と一緒に戦いのだろう。
大吾も1組チームではリーダー格のような存在。
これは幸助にとっても負けられないリーダー対決になるということだ。
そして2組チームは野球をやっていてボールの扱いに長ける豪がいるため
玉入れと大玉転がしといった玉を扱う競技は絶対に1組チームと3組チームには譲らないそうだ。
板倉先生は6年2組の担任のため2組チームの情報はここまでである。
それでも幸助にとっては有益な情報になったのかもしれない。
幸助「いいんすか!?板倉先生」
板倉先生「ああ!後はリーダーである幸助次第だぞ!」
板倉先生から与えられた情報は幸助がこれからリーダーとしてどうすべきかの指針となるはずだ。
板倉先生「でも意地悪なこと言うと幸助、お前は薫を超えられないってことだな」
幸助「え!?」
板倉先生から幸助に衝撃的な発言が飛んできた。
薫を超えられないとはどういうことなのだろうか。
板倉先生「幸助をリーダーにするっていう提案をしたのは薫なんだろ?」
板倉先生「もし3組チームが運動会で勝利することができたら」
板倉先生「それは薫が見事な采配をしたってことになる。」
幸助「うわあ!?」
幸助がリーダーとして活躍し3組チームを優勝に導いたのなら板倉先生が言うように
薫が幸助をリーダーに指名するといった提案、つまりは彼の判断は正しく
チームの作戦ないし彼の思惑が見事に成功したことになる。
逆も然りで、もし3組チームが負けてしまったのなら
薫のほうがリーダーとして相応しかったという見方もできる。
おそらく幸助の薫の嫉妬心や解消するための策だった思われるがそれも薫の懐の深さを表している。
とても意地悪で屁理屈だが板倉先生の言っていることは的を射ていて
どのような結果になっても薫のリーダーの器を超えることは幸助にはできないということである。
これには幸助もぐうの音もでないだろう。
牛久先生「板倉先生そんなことまで考えていたんですか」
板倉先生「伊達に幸助の担任を何年もやっていたわけじゃありませんからね」
板倉先生「一応私は6年2組の担任であり2組チームの味方ですので3組チームは敵なんですよ」
牛久先生「これも作戦の内ってことですね…」
作戦かどうかはわからないが少し幸助にプレッシャーとチームリーダーをやることに対して複雑な気持ちにさせただろう。
チームの士気を下げるには効果的だが、幸助のやる気が削がれてしまうわけではない。
寧ろこれが幸助のやる気の燃料になっているはずだ。
薫に言われたからではなく自らリーダーを志願すればこんな言われようはなかったはずなので
主体的になって取り組む姿勢ことの大切さに気付き、消極的だった自分への戒めとなり
幸助はこの運動会で大きな成長と経験を得ることができるだろう。
牛久先生「俺は3組チームの味方だから負けられないな幸助!」
幸助「はい!」
板倉先生「よし!その意義だ!頑張れよ幸助!」
こうして運動会の3組チームのリーダー幸助が誕生するのであった。

続く
戻る